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TOP > ユーザーコンテンツ > エッセイ > 安田均の「ゲーム日記」第3回
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安田均の「ゲーム日記」 第3回 (1997年6月30日版)


 というわけで、小説が書けてからのひと月はあっという間だった。
 ほかにも、メディアワークスに行ったら、仕事の打ち合せや、JGCでの“榊さんとの7番勝負”の相談もあったのに、それよりもククがおもしろいと広めてまわったり、ゲーム棚に目ざとく絶版となった鉄道ゲーム『サンタフェ』を見つけ、“榊さん、これ紹介してないじゃない?”“ああ、それ、よくわからないといって、放ってあるんですよ”“えっ、このおもしろいのを?! それはいけない、ぼくが研究しておいてあげよう”と持って帰ったりしていた。
 ところが、後日、第2回スニーカー大賞のパーティでの出来事。
 あかほりさとるが突然声をかけてくる。
“安田さん、今度勝負しましょう?”
“へっ?! 小説をたくさん書くのなら、絶対負けるからやだ”
“いや、ボードゲームですよ。ぼく、この前、榊さんのマルチゲーム三昧で『カポネ』をやったら、めちゃおもしろくてね。昔のボードゲーム魂が燃え出したんですよ。夏のJGCでは、ぼくは榊一派ということで……”
“ほう、あなたボードゲーム好きだったの?”
“そりゃ、もう、レイルバロンや孫子なんて、どれだけ燃えたことか”
“何い、レイルバロン!!! 同志よ!”(山本弘『RPGなんてこわくない』巻末付録参照)
Taku Koide ・Hirosi Yamamoto

 この瞬間、ぼくの目の中には、熱い友情の炎が燃え上がったのであった。
 聞けば、あかほりさんは昔のボードゲーム/ファミリーゲームをかなりやり込んでいる。簡単なのはよくやっていて、難しい『バラ戦争』なんかは、やる相手がいなくて、ルールだけを熟読玩味していたそうだ。
 しかし、榊一派おそるべし。こちらに『サンタフェ』を貸し出して恩を売りつつ、“あかほりさとる”という強力な援軍を繰り出してくるらしい。
 こちらも対策を講じなければ……JGCが待ち遠しいゾ。

 後は、ようやくモンスターコレクションTCGが完成し、『六門世界2』も書き上がったことから、ラジオ番組『グーチョキパー アニゲでポン!』にも出ている。これは毎日放送の関西ローカルだが(毎週金曜夜0時から、“ドラゴンキングダム”というコーナー)、なんとマジックやモンコレTCGをちゃんと紹介していこうという前代未聞の構成。20分ほどだが、声だけでどうやってTCGのおもしろさを伝えるのか、なかなか大変だ。
 でも、カードがきれいなのはわかってもらえたみたい。で、マジックなら“これでカードゲームみたいに魔法をかけあって、相手の生命点を0点にしたら勝ち”くらいまではなんとかなったが、そこからマナがどうのとか、クリーチャーを召喚して……とか説明しだすと、なんだかわかってもらえてるのかなあ、と心配。
 まあ、なんとかなるでしょう。

 そうこうしているうちに、オリックスは例によって10連勝したり、絶好調。おお、まだ今年はグリーンスタジアムに行っていないじゃないかと、慌てて行くと、よりにもよって、6月16勝3敗(信じられん!)のうちの負け試合のひとつに遭遇してしまった。
 悔しいから、翌日家族と一緒に行くと、圧勝したのはいつも通り。昔からこうで、ぼくは一人で見に行くと応援チームはよく負けるが、家族や仲間連れで行くとなぜかほとんど負けない。9回に逆転サヨナラ満塁ホームランとか、ドタン場二死からの逆転などがよく起る。どうしてだか不思議だ。




 さて、ゲーム日記私家版はこれくらいにして、ここからはいまホットなボードゲームのことを書いてみよう。
 6月といえば、ドイツゲーム大賞の候補作が出そろい、そろそろ大賞が決定する時期。
 第1回で予告した、これまで18年間の受賞作を遊び倒すという試みは、いまのところ頓挫気味なので、ここはちょっと見方を変えてみることにする。
 1997年の大賞候補作を遊んで、そこから今年の受賞作を予想してみる、というのが、今回のもくろみだ。
 ドイツでは毎年200を越す新作のボード/カードゲームが出ている。市場も大きくて、ちょっとおもしろい作品はすぐに10万個の大台にのるし、ヒットしようものなら、50万〜100万個売れてしまうというのもすごい。もちろん、これはドイツだけではなくって、その周辺のフランス、イタリア、オーストリアなどヨーロッパ全域に行き渡るからだが、それにしてもドイツが隠れたゲーム大国であるのはまちがいない。
 エッセンで毎年開かれるゲーム祭なんか、すでに90年代に入るころから、延べ参加者が10万人を越え、去年などは16万人以上だったというから、その規模がわかるだろう。
 純粋なゲーム大会なら、アメリカのジェンコンなども大きいが、ゲームが遊べて、その場で買え、見本市を兼ねた集まりというのなら、このドイツのものが世界最大だ。
 1993年のドイツゲーム大賞が、『ブラフ』っていうリメイクゲームになったのを不思議に思っていたら、出た時点であっという間に50万個を越えて売れてしまったからだとも聞いた。
 なんだか日本のコンシューマゲームみたいな地位を、ドイツではボード/カードゲームが得ているらしい(もちろん、マジックはヒットしていて、RPGもそれなりに遊ばれ、コンピュータゲームもあった上でのことだよ)。
 そして、なんといってもすごいのが、ゲームのデザイナーの名前がちゃんと通用すること。このゲームはだれそれの作品だと、必ず箱には書いてあるし、デザイナーの名での限定版もいろいろ出る。ファンはそっちのほうからも買うし(最近では、やっぱりトイバーが人気デザイナーだ)、逆にいうと、“あいつの作品はまだまだだ”というような辛口の批評が雑誌に乗ったりもする。なにか小説などと同じ扱いを受けているんだね。こいつはゲーマーの天国だぞ。
 それに、ゲーマーといっても、大人も多いしね。いろんな発言を見ていても、親が仲間同士だけじゃなく、子供と遊んでいると感じさせる発言がよく載っている。
 まあ、時短とか休暇の多い国だからね。昼休みには、オープンカフェで勤労者がビールを飲んでいる国柄だからなあ。ビール代を賭けてカードゲーム、なんてのもごく普通なんだろうと思う。
 ただ、これまでどうしてそういう部分が見えなかったかというと、これは言葉の問題も大きい。ドイツ語はヨーロッパ文化圏の中央にドンといすわっているけれど、まさかドイツ語をゲームのために習う人って少ないだろうしね。
 少なくともゲームにおいては、ドイツはドイツ語中心主義だ。かつて、フランスが自国の文化やフランス語に誇りを持っていて、それ中心に変えようとしないと言われたけれども、ことゲームに関しては、フランスは英語やドイツ語を併記しているものが多い。
ところが、ボード/カードゲームはドイツ語一辺倒のものが圧倒的に多いのだ。ま、言語というのは、その文化の中心になびくというのが普通だから、やっぱりヨーロッパじゃゲーム文化はドイツが中心ということになっている証なんだろう。
 さいわい、最近でこそ、このおもしろさに気づいた英米圏(特にイギリス)では翻訳の気運が高まっている。最初はこちらもそれを当てにしていたんだけれど(重訳というやつです)、どうもそれだけでは不十分だということがわかってきた。ときどき誤訳  というよりも、手抜き訳  してるんだよね、英米系が。仕方なく、辞書や入門書を片手に、ドイツ語を読もうとしはじめたんだけど、これがなかなか大変。まさか、この年になって、新たな言語を覚えようとしはじめることになろうとは。う〜む、ゲームというのも奥が深い。

 それはともかく。
 そうしたドイツでテーブルゲームが盛んになったのも、いい意味で『ドイツゲーム大賞』などの権威づけがあったからだろう。
 ドイツゲーム大賞(SPIEL DES JAHRES)は、なかなかよく考えてある。
 決して、マニア向けでも、かと言って、商業主義に毒されているだけでもない。受賞作は審査員によって決められるのだが、おもしろさや内容はもちろん、市場のことも考えながら、見事にバランスを取っている。
 ある年にやや難しい作品が受賞すると、その翌年はわかりやすくてアイデアのすぐれたもの、その翌年は、よく売れたもの、というように、一部作為的ながら、そこには必ず意味があるし(言い換えるなら“見識”というやつだろう)、幅がとにかく広いのだ。
 RPGやウォーゲーム、TCGなどは範囲外だが、そこから派生しているテーブルゲームは対象となる。
 ときどき、“候補作には受賞作よりおもしろいものがある”という意見も聞くが、そんなことは当然で、おもしろいだけではなくって、いかにテーブルゲームがちゃんと発展するかを考えて与えてきたからこそ、今日のドイツテーブルゲームが存在したのではないかとぼくは考える(せこい意味ではなくって、大人なんですよ、考え方が)。
 まあ、おもしろさを重視したり、マニア/ファンの好みに沿ったものというなら、これとは別に『ドイツゲーム賞』(DEUTSCHER SPIELE PREIS)というのもある。こっちの方が確かに、ぼくみたいにゲームに熱中しているタイプにはわかりやすいけどね(こちらの賞だと、トイバーやクニーツアはもちろん、トム・ショープスってデザイナーが高く評価されているのは大歓迎だ。『バオエルンシュラオ(“黒羊を探せ”もしくは“セコいお百姓さん”ゲーム)』や『シュテルネンヒンメル(12星座ゲーム)』はいいゾ)。

 ということで、今年(1997年)のドイツゲーム大賞候補作には、つぎのようなものが並んだ。対象は、1996年4月〜1997年3月までに出たものらしい。

BOHNANZA(ボーナンザ) 3〜5人用 U.ROSENBERG(ローゼンベルク)作 AMIGO社
 いろんな豆を育てて、それを売るために交渉するカードゲームだ。嫌味でない交渉がどんどん進んでいく、にぎやかなゲーム。これは斬新でおもしろい。ファンからは“ぜひゲーム大賞に!”の声が高いが、チープなカードゲームであるというハードルを果たしてクリアできるか?(名作『6ニムト』も、それで結局大賞を逸した)
COMEBACK(カムバック) 2〜4人用 R.STAUPE(シュタウペ)作 STAUPE SPIEL社
 点数集めのカードゲーム。高い点と倍数のある点をどう“競り”で集めるか。小振りなゲームとして、よくできているが、計算の苦手な人は好みじゃないだろう。
DIE SIEDLER VON CATAN  DAS KARTENSPIEL(カタンの開拓:カードゲーム) 2人用 K.TEUBER(トイバー)作 KOSMOS社
 名作『カタンの開拓』のカードゲーム。2人用カードゲームとしては、かなりよくできているが、『カタンの開拓』の好きな人は、もとの4人用をやっぱり遊ぶのじゃないだろうか。
DIMENTICATO(ディメンティカト) 2〜4人用 F.HEIN(ハイン)作 DR.F.HEIN SPIEL社
 止った場所にサイコロの目が書いてあり、その数だけ進める回りスゴロク。サイコロの目は毎ゲーム、ランダムに変わり、どう進めるか頭を使う。これで記憶ゲームの要素さえなければ、そこそこ楽しく遊べるんだけど……。
EXPEDITION(イクスペデイション=遠征隊) 3〜5人用 W.KRAMER(クラマー)作 QUEEN SPIEL社
 かつてWILDLIFE ADVENTUREとして出た、幻の名作のリメイク。考古学遠征隊が世界の遺跡をまわって調査するゲーム。矢印の置き方で、まわり方にはいろんな戦略が立てられ、おもしろさとしてはかなりのもの。だけど、リメイクである点が大賞には障害か。
LOWENHERZ(レーベンヘルツ=ライオンハート) 2〜4人用 K.TEUBER(トイバー)作 GOLDSIEBER社
 ボードのマス目を柵で仕切って、領土の大きさを競う。囲碁にも似て、仕切るのは相手を利することにも。それと、行動権を競りで入札する。これもおもしろい。そこそこルールがあるが、1〜2ゲームして理解すれば、陣取りゲームの楽しさを満喫できる。質量ともにゲーム大賞にふさわしいが、“また、トイバーか”の声も。
MANITOU(マニトウ) 2〜4人用 G.BURKHARDT(ブルクハルト)作 GOLDSIEBER社
 毀誉褒貶いちじるしい新鋭ブルクハルトのカードゲーム。テーマ(インディアンのバッファロー狩り)はおもしろいし、ゲームはそれなりに遊べるのだが、やはりルールがちょっと未整理(乱数の幅が大きかったり、余計なものが残っている)。クラマーやトイバー、クニーツアなど大先輩の後では、まだまだ修業が必要じゃ!
MISSISSIPPI QUEEN(ミシシッピ・クィーン) 3〜5人用 W.HODEL(ホーデル)作 GOLDSIEBER社
 河に見立てた蛇行するボードで、レースゲームをという発想は秀逸。蒸気船や乗客の駒も雰囲気を漂わせてグー。でも、短かすぎるんだよね。往復での競争なら、ゲームとしてちょうどよかったのに。ゲーム慣れしていない人には、最適の作品かもしれない。審査員のポリシーによっては、これが意外に受けるかも。
SHOWMANAGER(ショーマネージャー) 2〜6人用 D.HENN(ヘン)作 QUEEN SPIEL社
 いかにもファミリーゲームという王道を歩んでいる作品。テンポもよく、どれだけ最適の役者を雇って、ミュージカルを世界各地でうつかというゲーム。ぼくとしては、これがゲーム大賞の本命ではないかと思うんだけれど、ドイツのゲーマーたちは交渉要素が少ないとブーたれている。でもね、日本もそうだけど、ゲームで交渉が苦手な人も結構いるのだよ。その意味で、これはちょっと古いタイプのよくできたボードゲームだ。
VISIONARY(ビジョナリー) 4〜8人用 R.DUBREN(デュブレン)作 SCHMIDT SPIEL社
 これだけは、まだ未入手。なんでも目隠しして、いろいろ探るパーティゲームらしい。ドイツでの評価は“最初はおもしろいが、飽きる”ということのようだ。


 こうして並べてみると、今年の候補作も色とりどり。さすがにバラエティに富んでいる。ただ、90〜94年ごろのとんでもない秀作・佳作の乱立といった状況からは、少しおとなしめになったかなとも思う。
 ぼくの感想では、アイデアという面から、マルチ(多人数ゲーム)で“気持ちのいい交渉”“相手がいいヤツに見える”という意表をつく発想を具体化した『ボーナンザ』、ちょっと古い感覚かもしれないが、ファミリーゲームの風格を堂々と伝える『ショーマネージャー』(何回かプレイしたが、これはなぜか女性プレイヤーが強い)、そして、ルールはちょっと多いものの、やっぱりアイデア、ゲームメカニズムに鋭いものをもつ『レーベンヘルツ』の3つが大賞にはふさわしいんじゃないか、と感じた。
『イクスペディション』(リメイク)『ミシシッピ・クィーン』(ちょっと短い)『カタンの開拓カードゲーム』(続編)も、ゲームとしてはよくできているのだが、()に書いたような弱点というのがはっきりしている。
 おそらくこれがアップされるのと時をおかずして、大賞も決まるだろう。あえて、その危険を冒して、これだと予想すれば『ショーマネージャー』じゃないかと思う(本心は『ボーナンザ』に取ってほしんだけどね)。

 いずれにしても、ここに書いたようなゲームは、アメリカ型のデータ中心ゲームに対して、ドイツがここ10年ほどで盛んにしてきたロジック中心ゲームの新発展という、別のおもしろさを提示している。
 興味をもった人は、ぜひ一度試してもらえたらと思うのだけれど、どうだろう?
(こうしたゲームを日本語訳付きで売っているお店は、この連載の第1回に書いていますので、それを参照してください)

 さあ、次回は月一回更新をめざそう!




追記:この記事がアップされたのが、7月8日(書いたのは7月1日だけど、写真とか記事構成など編集のため)。
 ところが、念のため、ドイツゲーム大賞関係のホームページをのぞくと、何と同じ日に、大賞が発表されているではないか!
 1997年のドイツゲーム大賞受賞作。その名は−−『ミシシッピ・クイーン』!!
 予想は見事に外れだあ(笑)。
 ご覧のように、ぼくは4〜5番手くらいに考えていた。
 ねっ、これだから賞というのは……。
 もっとも、そのホームページには、早くもファンからの反応が返ってきている。その大意を書いておこう。

“今年のドイツゲーム大賞が決まった。
 とてもいいのは、ゴルトジーバー社のゲームがついに受賞したことだ。同社はここ3年、よいゲームを出し続けていたが、大賞に縁がなかった。これは喜ぶべきことだ。
 とても残念なのは、受賞作がベストではないことだ。わたしには、これは3年前に、ベストのゲーム『6ニムト』が、受賞を『マンハッタン』に譲ったことを思い出させる。
 でも、そのことで、わたしが怒っているというのではない。
『ミシシッピ・クイーン』は、もちろんいいゲームだ。ただ、もっと斬新で、プレイヤー同士であれこれ交渉ができ、繰り返し遊びたくなるゲームもあったということ。こういえば、わたしが『ボーナンザ』を差しているのはおわかりだと思う。だが、大金を投資している熱心なボードゲームのメーカーがあるのに、10マルク(約700円、なんと安い! 110枚もきれいなカードがあるんだぜ−−安田)のチープなゲームが受賞してはと、審査員も考えたのかもしれない。
 その意味では(典型的なボードゲームということ)、『ショーマネージャー』か『イクスペディション』が、取ってもおかしくはなかった。
 しかし、ここ最近のゴルトジーバー社のがんばりが『ミシシッピ・クイーン』をアッピールしたのだろう。
 わたしとしては、秋に決まるドイツゲーム賞で、ベストと思う『ボーナンザ』か『レーベンヘルツ』が受賞してくれるのを期待しよう”
 ま、この人が、だいたいぼくの感想を代弁してくれているようなので、特に付け加えることはない。
 やっぱり、当たったり、外れたりで、賞レースというのは楽しいものですね

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