ピノクル



 松田道弘さんの『おもしろいトランプゲーム』(筑摩書房)の影響からか、定番のポーカー、コントラクトブリッジ以外で最高のトランプゲームはスカートだ、というような感触を持っている人も多いようだ(えっ、スカートって何?、という人ももっと多いだろうけど)。
 たしかに、スカートっていう、3人遊びのドイツ国民遊戯的なトランプゲームはおもしろい。だけどこれ、ぼくは覚えようとトライしたこと2回、そのたびに挫折していた。
 理由は、トランプゲーム(というよりも、コントラクトブリッジのようなトリックテイキングゲーム)を知らない人二人を相手に遊ぼうとしても、まずなかなか理解してもらえないのと、そもそも札の順位が、ジャック、エース、10、キング、クィーンという一見でたらめな並びで頭が混乱する上、ウィズワン、ウィズアウトワンというような役(麻雀みたいなものと考えたらいいのだが)やビッドがさっぱりわかってもらえない。
 さらに、このスカート、異なる種類のゲームが3種類まじっている(ゲームを選べる)という、信じられないくらいのややこしさ(要するに手がよくても、逆に極端に悪くても、勝負できるというトータルなゲームということだ)。
 なら、松田さんと知りあいなら、教えてもらったらいいじゃないかとも言えるのだが、ほら、慣れてる人たちって、スピードが早い上に、こっちが勘違いしたり、リボークしたりしたら迷惑なのは、自分でもよくわかる。ある程度、基本がわかった上でなければ、教えてもらうのも申し訳ないと思って当然だろう。
 そこで、ぼくはまずステップアップを考えた。伝統のあるゲームなら、少なくとも進化の順序はあるはずだ。スカートにかなり近くて、おもしろくて、もう少し覚えやすいゲームは?
 それが、このピノクルだ!(ちゃんと、ピノクルを何人かに教えると、スカートもおもしろく遊べるようになったので、いまは自信を持って言い切れる)
 ピノクルはそれ自体、アメリカでもそこそこ遊ばれているいいゲームだ。役は絵札の組合わせ(メルド)で、最初に公開するということでわかりやすい。札の順位もエース、10、キング、クィーン、ジャックということで、10が移動しているだけ。ビッドは単純な競り上げで、勝ち負けはビッドできまった値をとれたかとれないかを見るだけだから、スカートに近いものの、だいぶわかりやすい(値はトリック数じゃなく、絵札の得点−−これもスカートと同じだ)。ちなみに、ぼくがここで書いているのは、3人用のオークション・ピノクルだ。
 ちょっと最初とまどうのは、マストフォロー(リードに出された札の種類にはできるだけ従う)はいいのだけれど、あと、それがないときは切り札をまず優先的に出さねばならないというマストラフ、さらに、そうした切り札は後の者ほど高いものをできれば出していくという点だろう(この最後については、リードが切り札のときという説と、リードが切り札でないときという2つの説があるらしい)。
 まあ、ルールの細かいことはおくとして、絵札がいろいろあるので最初は見にくいけれど(トランプは絵札を中心に2組48枚を使う)、華やかで、その割には頭も使うので、なかなか楽しい。なぜかスペードのクィーンとダイヤのジャックがペアだと“ピノクル”と呼んでかなりの役点がもらえるけれど(通常のキングとクィーンのマリッジペアより高かったりする)、ぼくらはこれを“やっぱ、不倫の方が価値が高いんだよなあ”と言ってありがたがっている。