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TOP > ユーザーコンテンツ > 著者インタビュー > 『ストームブリンガー』&『ひと夏の経験値』クロスインタビュー(2006年09月)
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ストームブリンガー

○はじめに

 アメリカ産TRPGの傑作ストームブリンガー。その最新作がついに日本でも翻訳・出版されました!
 翻訳者はグループSNEの中堅ナンバーワン(どこまでが中堅に入るのかは不明)の呼び声も高い江川晃
 彼、最近は露出が控えめでしたが、なにもSNE事務所へ次から次へと送られてくるドイツゲームやらアメリカゲームやらのルールブックの翻訳ばかりをやっていたわけではないのです。大著と言っても過言ではない、まったく過言ではない、むしろ超著と呼びたくなるような作品=「ストームブリンガー」の翻訳を華麗に行っていたのです!
 今回はその江川晃を招き、グループSNEの後輩・秋口ぎぐるが翻訳秘話やその他よもやま話をお聞きする運びとなりました。
 ちなみに秋口は近著ひと夏の経験値の本文にて「ストームブリンガー」について触れており、その縁もあって今回の聞き手に選出された次第です。光栄の至り! 恐悦至極!
2006年09月 発行
記事作成 秋口ぎぐる


○ムアコックの世界

秋口: さてさて、期待の翻訳TRPG「ストームブリンガー」についてですが。まずは世界観についてのお話を――。
江川 ロール&ロールvol.25の紹介記事を読んでください(笑)。
 

※注 「ロール&ロールvol.25」の紹介記事ではTRPG「ストームブリンガー」の世界観が簡潔にまとめられています。記事の執筆は江川晃。
 
秋口: そうなんですよねー、世界観についてはあれを読めばわかっちゃうんですよねー。では「くわしくは紹介記事を読んでください」ということで、ここでは簡潔に。
江川 そうですね。「ストームブリンガー」は英国の作家マイケル・ムアコックの世界観、特にエルリック・サーガシリーズの世界を体験できるTRPGなわけですが。
秋口: ダーク・ファンタジーの世界ですね。
江川 この世界を簡単に言い表すと、「〈法〉と〈混沌〉と〈天秤〉という勢力がせめぎ合っている多元宇宙の中の1つ」ということになります。〈法〉は安定と永続を、〈混沌〉は変化と進化を、そして〈天秤〉は両者の均衡を目ざしている。これらのバランスが世界そのものの行く末に関わっていきますよ、という――少なくともムアコックの世界観はそのようなものだ、と私は理解していますね。
秋口: PCたちの位置づけは?
江川 英雄候補生とでも言いましょうか。「ストームブリンガー」では、PCたちはかなり強い。もちろんその世界に住んでいるほかの住人たちに比べれば、ということですが。
秋口: ほほう、英雄候補生ですか。ということは、エルリックにもなれる?
江川 近い存在にはなれますけど……たぶんエルリックには勝てない(笑)。
秋口: エルリックは別格ですからねー(「ストームブリンガー」では「エルリック・サーガ」シリーズの主人公、悲劇の皇子エルリックもちゃんとデータ化されています)。ただ「ストームブリンガー」のPCって、(秋口が)こないだプレイした限りでは、だいぶ弱く感じましたけど……。
江川 ほかのベーシックロールプレイ(以下:BRP)ゲームと比べたら強いほうなの!(苦笑)
秋口: お、BRPの話が出ましたね。


○ベーシックロールプレイ

秋口: BRPというのは汎用TRPGシステムと考えてよろしいのでしょうか。
江川 1つのシステムをベースにいろんな世界を表現できる、という意味ではそうでしょう。汎用と言っていいと思います。
秋口: BRPで表現されている世界観としては、もちろんこの「ストームブリンガー」もそうですし、ほかにもクトゥルフ神話TRPGルーンクエストがあったりするするわけですが。
江川 アメリカの老舗、ケイオシアム社の看板商品ですね。
秋口: そこでふと気になったのですが……たとえばBRP版「クトゥルフ神話TRPG」で作ったばかりのPCが、次元の門を通って「ストームブリンガー」の世界へ行ったとするじゃないですか。そこで「ストームブリンガー」で作成したばかりのPCと喧嘩をすることになったら、やっぱり圧倒的に「ストームブリンガー」PCのほうが強い?
江川 基本的には……(苦笑)。
秋口: あれれ、ちょっと語尾を濁す感じですが(笑)。
江川 クトゥルフのキャラはとか持ってたりしますからね。1対1の殴りあいならともかく、離れたところから銃で撃たれたら辛い。
秋口: さすがの英雄も銃には勝てないと(笑)。離れたところからショットガンをかまされたら死んでしまうと。
江川 何メートルか先から撃たれたら……あっさり死ぬでしょうねぇ(苦笑)。
秋口: そう考えると、やっぱり汎用RPGはいいバランスですよね。
江川 たしかに。
秋口: これは私事になるんですけど……先日、とあるイベントでユエル・サーガのGMをやったんですよ。そこでですね、130CPで作った英雄キャラ5人は棍棒を持った一般人13人に勝てないということが判明しまして――。
江川 そりゃそうだ(笑)。
秋口: ああいいバランスだなぁと。このゲームは嘘ついてないなぁと……そう思ったわけですよ。PC、危うく全滅しかけましたしね。
江川 結論としては、英雄も数の暴力と文明の利器には勝てないとういことで(笑)。


○エルリック・サーガ

秋口: 「エルリック」シリーズは、昔から読んでいらしたんですか?
江川 読んだのはSNEに入ってからですね。24、5歳ぐらいから。当時、うち(SNE)は箱入りでエルリックのゲームを出していまして。
秋口: 自社製品ということで読んだわけですね。感想は?
江川 ひどい話だなぁ、と思いました(笑)。
秋口: たしかにひどい話ですよね。それに独特の酩酊感があるというか……それがいい部分だったりするんですが。
江川 たしかにトリップ感はありますね。
秋口: ゲーム版では、そのあたりの感覚は再現されているんでしょうか?
江川 シナリオ次第ですね。PCに〈法〉や〈混沌〉のポイントが定められていたりもしますし、世界観をうまく使えば、独特の感覚を出すことはできると思います。
秋口: 酩酊感とトリップ感……ほかに世界の魅力を挙げるとしたらなんでしょう?
江川 これは一読者としての感覚ですが……僕は、滅びゆくものには惹かれますね。「エルリック・サーガ」の原作は、もうどうしようもない終わり方をするわけですよ。まぁエターナル・チャンピオンの世界(ムアコックの描く〈多元宇宙〉を舞台とした作品群の世界)は、どれもろくでもない終わり方をするんですが。
秋口: 「チャンピオンってそういうもんじゃないだろ!」と、日本人的には思ってしまいますよね(笑)。
江川 「ストームブリンガー」世界の中核、世界の元もとの中心である”光の帝国”メルニボネからして頽廃の極みですからね。かつては世界の盟主だったのに、現在は頽廃しきっている。こうした要素がゲームとしての売りになるかどうかはともかく(笑)、世界の魅力ではあるでしょう。もちろんゲームとしての「ストームブリンガー」は頽廃とは関係なしに、純粋にヒロイック・ファンタジーとしても遊べますが。


○ゲームとしての魅力

秋口: ゲームとしての……という話が出たところで、背景世界とは別の、ゲームシステムとしての魅力を教えていただけますでしょうか。
江川 ずばり豪快さ爽快感でしょう。武器技能の成功率が普通に200%を超えるゲーム、なんてそうはない。
秋口: 200%を100%ずつに分けて「必ず成功する攻撃を2回行う」としてもいいし、50%ずつに分けて「半分の確率で成功する攻撃を4回行う」としてもいい――というシステムですね。
江川 あとは、デーモンを呼びだして自分の武器に宿らせて戦うとか。
秋口: デーモンの召喚! それはPCが高レベルになれば、ということでしょうか?
江川 いえ、「ストームブリンガー」はクラスレベルなどのない(純粋な技能制の)ゲームなので、条件さえ整えば、どのキャラクターでも可能ですよ。
秋口: 武器成功率200%ありーの、デーモンありーの。たしかにキモチイイですね。PCは豪快な活躍ができそう。
江川 そのかわりエルリックは武器成功率880%ですが。
秋口: それはさすがにショットガンでも勝てませんね。
江川 勝てませんねぇ(笑)。


○英国人のセンス

秋口: 話は戻りますが……ムアコックはイギリス人ですよね。「退廃の美学」というのはやはりイギリスの感覚なのでしょうか? いわゆるアメリカの一般的なヒロイックファンタジーとは趣が異なるのかな、と思ったりするのですが。
江川 (アメリカのヒロイックファンタジーとは)ぜんぜん違いますねぇ。どちらかと言うとムアコックの作品はアンチ・ヒロイック・ファンタジーなので……どうなんだろ、そのあたりはイギリスのセンスなんですかねぇ。
秋口: でもムアコックはアメリカでも売れたんですよね。イギリス人の産みだした作品なんだけどアメリカでも受け入れられ、もちろん日本人にも広く共感されるものであったという……。
江川 そうですね。


○翻訳者・江川晃

秋口: 江川さんの名義で出版される翻訳作品は久しぶりかな、と思うのですが。
江川 シャドウラン以来ですので、かれこれ10年以上ぶりですね。
 

※注 「シャドウラン」は1990年代のTRPGシーンに衝撃を与えたサイバーパンクTRPGです。このたび最新版「シャドウラン第4版」が朱鷺田祐介先生(スザクゲームズ)の翻訳で発売されることになりました。
 
――あ、「シャドウラン」以降もドイツボードゲームの翻訳はしてましたよ。エポック社から出たミシシッピクィーンとか。
秋口: ではTRPGとしては「シャドウラン」以来であると。
江川 今回、「ストームブリンガー」の翻訳をやりはじめた当初は頭が翻訳のほうへ動かなくて、えらく苦労したのを覚えてますね。「あーおれ翻訳うまくなってねーなー」と思いました。「下手だなーおれ。うわ下手!」と。
秋口: そんなことありませんて(苦笑)。
江川 前バージョンである「エルリック!」がありますので、訳語を参考にさせていただいたり、逆に訳語の統一で苦労したり。
秋口: 翻訳は独特の苦労がありますよね。
江川 いまはガープス・マジックの翻訳を泣きながらやってます(笑)。
秋口: ところで、世間では、江川さんと言えば「シャドウラン」、というイメージが強いと思うんですが。僕自身、高校時代はファンでしたし。
江川 おやおや。ありがたいことを(笑)。
秋口: で、これはお世辞ではなくて言うんですが……当時「シャドウラン」の小説やリプレイを読ませていただいていて、僕は非常に色気のある文章を書く方だなぁと思ったんですね。
江川 ほんまかい、と言いたいですね(ツン)。
秋口: いやほんと、僕だけじゃなくて、僕のまわりの人間も言ってましたし。
江川 そ……そんなこと言われたの初めてでしてよ(デレ)。
秋口: 「色気のある文章」のルーツだとか秘訣だとか、そのあたりをお聞かせいただけるとありがたいんですが。
江川 そんなことを言われたのは初めてなので……自分でそんなふうに思ったこともないので、「秘訣なんかない」としか言いようがないのですが(苦笑)。ただ……そう、これをルーツと言っていいのかわかりませんが、「シャドウラン」をやっている頃は、志水辰夫さんの本をよく読んでいましたね。
秋口: 志水辰夫さん……恥ずかしながら、僕は拝読したことがありませんね(汗)。
江川 知ってる方、いらっしゃいますでしょうか。作品としては裂けて海峡とか飢えて狼とか、いわゆる冒険小説のたぐいなんですけども。あの方の文章にはかなりの影響を受けたというか、「ああこれすごいわ!」と思いながら読んでいましたね。
秋口: 冒険小説といいますと――。
江川 東西謀略ものとかスパイものとか。
秋口: ヒギンズル・カレが有名ですよね。冒険ものと言えばイギリス作家、イギリス作家と言えば――。
江川&秋口 ムアコック!
秋口: ということで、きれいにつながってしまいました(笑)。


○最後に

秋口: では最後に、ユーザの皆さんへのメッセージなどを。
江川 「ストームブリンガー」は、まず戦うことがおもしろい
秋口: 武器成功率200%ですね(笑)。
江川 そう。それと同時に、世界観もうまくゲームに取りこまれているわけです。セッションを続けるうちに、PCが〈法〉の勢力に傾いたり〈混沌〉の勢力に傾いたりしていく。つまりPCの行動が世界そのものに反映されていく……ですから、プレイヤーは戦闘を楽しみながらGMと協力し、世界観をより深く楽しんでいける。
秋口: 遊ぶうちに世界観への理解も深まっていくと。
江川 原作を知らない人でも十分に楽しめるものになっていますので、手にとっていただければありがたいな、と思います。
秋口: なるほど。今日はどうもありがとうございました。
江川 ありがとうございました〜。


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