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TOP > ユーザーコンテンツ > 著者インタビュー > 河野裕『いなくなれ、群青』インタビュー(2014年09月)
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河野裕『いなくなれ、群青』インタビュー

   『いなくなれ、群青』

   著:河野裕 /イラスト:越島はぐ
   2014年9月1日発売
   新潮文庫

 いま、ノリにのっているグループSNE所属の小説家・河野裕
 2014年8月には新潮社より新作
『いなくなれ、群青』を上梓しました。

 
階段島という不思議な孤島を舞台に、「青春」というテーマを正面から描く、
 「階段島」シリーズの第一作となる、謎に満ちた本作について、
 私こと伊勢淳三が河野裕にインタビューいたしました。

 ネタバレを回避するために、未読の方には謎の多い内容になっていますが、
 作品の魅力や楽しみ所について謎は謎なりにしっかりとお伝えいたしますので、
 ご一読いただいたみなさまはもちろん、未読の方もぜひお楽しみください。
2014年9月
記事作成 伊勢淳三





■■ はじめに

――: それでは、本日はどうぞよろしくお願いします。
河野 はい、よろしくお願いします。
――: というわけで新潮社様より発売となった新作小説『いなくなれ、群青』のインタビューということで。
まずは、一言だけ感想を言わせていただいていいですか?
河野 どうぞどうぞ。
――: 「魔女」に会いたい!
河野 そこですか!? まあ、確かにそれは思いますよね。どの年代でもそうなのかな?
――: どうなんでしょう。個人的には熱烈に会いたいわけですが。
河野 何故魔女に会いたいか、語ります?
――: いや、そこは読まれた方にだけ失笑していただこうかな、と。


■■ 『いなくなれ、群青』のなりたち

――: というわけで、あらためましてインタビューの方を。
河野 お願いします。
――: まずは、本作『いなくなれ、群青』の成り立ちから教えていただけますか。
河野 そうですね、新潮社さんの担当編集の方が非常に「サクラダリセット(以下「サクラダ」)」を気に入ってくださってまして、新たに新潮文庫nexという作品群を立ち上げるにあたって、第一弾に、というありがたいお話をいただきました。それが最初ですね。
――: そこから新潮社さんで出すにあたって、どういう作品にしていこうかと考えられたのですか?
河野 いやぁ、割りと明確に、担当編集さんから「サクラダ」が好きです、という心強いお言葉をいただいていたので、まずはそこに準じようと。
そもそも、私にとって一番、テンプレートみたいなストーリーっていうのが「サクラダ」なんですよ。ですので、自然につくるとあんな感じの作品になる。
でも、さすがに毎回それを続けるわけにもいきませんので、違うこともやっていかないとなぁ、と。
――: 違うこと、というのは「つれづれ、北野坂探偵舎(以下「つれづれ」)」を?
河野 角川さんでやらせていただいてますし、それとは別にドワンゴさん、角川さんとグループSNEの共同企画となる3D小説という作品に関わるのも分かっていましたので、新しいところはそれでできているな。じゃあ、一度「サクラダ」らしいところにもどってみようと。
――: なるほど。
河野 今後も「サクラダ」的な小説と、違うものとを交互にやっていければいいな、という思いがあります。新潮さんから「本当に、好きに書いてください」ってご依頼をいただいたものですから、今回は自分の王道のようなものを、好きに書いたんですよ。
――: 『いなくなれ、群青』は河野裕ワールドの典型的な小説として書かれたということですね。
河野 そういうコンセプトで書きましたね。
でも、今回は最初から思いっきり主人公とヒロインの物語にしてみたいな、とも思いました。今までシリーズを書くときは第一弾としてまず基盤を固めるというか、とりあえず世界観をしっかりしておこうとしてきたんですよ。端的にいうと「サクラダ」も「つれづれ」も、1巻では主人公の物語にはしてないんですよね。
――: 基本は「サクラダ」的ですけど、新しい方向性もしっかりあると。
河野 「サクラダ」的ってのは、ようするに文体だと思うんです。これはどうしても、視点人物がある程度若くないとできない。
10代だからというか、若さに守られているというのが前提にある感じですね。
ちなみに、新しい方向といえば、この作品って私にとって
はじめての一人称長編なんですよ。
――: おお、全然気づいていませんでした……。
河野 「サクラダ」「つれづれ」も一人称っぽい雰囲気ですけどね。一応、三人称で書いているんです。ただ、『いなくなれ、群青』の場合は、頭から主人公の心理描写をメインに置きたいと考えていましたので、よりどっぷりと分かりやすく一人称でいこうと。だからストーリー展開やサブキャラクターの扱いなどが、やはり「サクラダ」とは違いますね。


■■本作の「謎」に迫る

――: さて、そうして書き進められていった『いなくなれ、群青』ですが。
河野 はい。
――: 内容に触れると、もうネタバレしか存在しない、っていうくらい謎がメインの作品になってますよね。
河野 や、実は『いなくなれ、群青』では、「謎」ってあまり意識してないんですよ。
――: え?
河野 たまに言うことなんですけど、設定は突き詰めるとSF的になって、プロットは突き詰めるとミステリ的になると思っています。
先へ読み進めてもらえるためのプロットを、っていうのを考えると、振り方としてはどうしてもミステリ寄りになっていくのかな、と思っているところがありまして。
「サクラダ」では「ミステリ的な構造」というのを明確に意識していましたが、今作ではとくに意識せず、作品にとって自然な順番で情報を出していきました。っていう感じですね。
――: じゃあ、この本の売り文句にもなっている「青春ミステリ」というのは……
河野 私はミステリとしては書いていないですが、本を売るのは編集さんの仕事だし、最終的な判断を下すのは読者さんなので、作者がどうこういうことでもないのかなと思っています。ミステリというのは幅の広い言葉ですし、何らかのジャンル分けは必要でしょう。特に魅力的な謎を作ろうという意識はないですが、カテゴライズするとそうなのかなと。
――: では、続いて「階段島」という舞台について。「階段島」という名前も変わっていますが、構造も非常に特殊ですよね。これはどういうところから着想されたのでしょう。
河野 えっとですね、作品の中心にあったのは「ゴミ箱」なんですよ。
――: いきなり作品の核心っぽいところにきましたね。まあ、「ゴミ箱」という言葉は冒頭からキーワードとして結構出てますから、これだけではネタバレにはなりませんけど。
河野 一番最初に「これはこういう作品なんだ」というのを書くために20行くらいの短いテキストを作ったんですよ。基本的に、それは「ゴミ箱」についてのテキストで、まあ10行くらいはひたすら「ゴミ箱の中の幸せ」について語っているという。
――: 「ゴミ箱の中の幸せ」ですか(苦笑)。
河野 私自身に向かって「ゴミ箱の中の幸せってなんだ?」と問い続けるようなテキストを書いて。テーマとして成立しそうだなと思ったので、今回の話を書くことにしました。その中で舞台にとって一番重要なワードになるのは何だろうと考えたら、「階段」になりました。
――: なるほど! と言いつつ、これだけ聞いても読んでいない方には何がなんだか分からないですよね。
河野 伊勢さんが「ネタバレは回避しましょう」って言うからですよ(笑)。ともかく、ゴミ箱に一番つながる単語が階段だったので。
――: 「ゴミ箱と階段は切っても切れない関係」というのは読んで頂ければわかりますので、ぜひご一読ください!


■■キャラクターについて

――: つづいて、キャラクターについてちょっと伺いましょうか。書くにあたって最初に浮かんだキャラクターは誰でしたか?
河野 それはやっぱり、主人公ですね。あとヒロインがほぼ同時で。もう、単純に対応する項目としてあの二人がいるので。
――: まずは主人公とヒロインありき、と。周囲はその後で?
河野 そうですね。完全にあの二人がいて、あの二人の話になるのもわかりきっていて。主人公の七草は悲観主義者、ヒロインの真辺は理想主義者なんですが、そんな2つの哲学を持っているキャラクター同士の関係性を書こうというのが中心にあったんですよね。二人が出会うところから物語を始めようというのも、頭の頭から考えていました。
あとは必要に応じて作っていったという感じです。私の場合、そのくらい、つまり舞台と主人公とヒロイン、というのが固まったらもう書き始めてしまう。で、初稿を上げる段階で必要なキャラクターをリストアップしていって、その後で思いっきり修正していくという書き方をしています。
その中では「一〇〇万回生きた猫」というキャラクターはわりと初期からいましたね。この本の書き出しをどうしようか、というところであのキャラクターはポンといたので。
――: 新潮社さんのwebサイトなどで「ナド」として紹介されているキャラクターですね。非常にクセのある人物で、重要なキャラクターそうな雰囲気なんですが、本筋に関係するかというと、本当に微妙な位置にいる。
河野 あくまでプロットで考えると、1巻において重要なキャラクターって、本質的には主人公とヒロインだけですね。ただ、この作品を形作るいろいろな部分はそれぞれのキャラクターの中にあると思ってます。
本作『いなくなれ、群青』の芯にいるのは主人公とヒロインなんですが、それを補う視点がどうしても必要なので、他のキャラクターたちがフォローしています。あのふたりだけではみえてこない場所を周りが埋めていて、だからわりとストレートに「ナド」が言っている言葉もこの作品の本質であったりします。
あと、誰も触れなさそうですけど中田さんというキャラクターがいまして。あのへんもわりと作品の中心にくることを言っているんですよ。
――: 中田さんって時計の人でしたっけ?
河野 そうそう。
――: 中田さんはじめ、大人たちも大人らしく味のある関わり方をしてきますよね。距離が適度というか。でも、最後まで読むと、「この世界の大人って……」と、ちょっと悲しい感じがするのですが。
河野 そうですね。あの世界における「大人」ってちょっと悲しいんですよね。もちろん、子供もそうではあるんですが。
――: やっぱりなんとなく、大人の方が気にかかるかと。まあ、単純に悲しいと表現していいかというと……
河野 よくわかりませんよね。階段島に来なかった方が幸せだったのかというと、それもまた問題で。
――: 難しいですよね。
河野 その辺の、よく答えが分からないところを、シリーズを続ける中で出していければいいですね。結局、階段島は救いなのか、救いじゃないのか、というのは大きなテーマだと思っています。
――: それがシリーズのメインテーマに?
河野 なにがメインテーマなのかは、一応伏せておきます(笑)。
――: しんみりしてしまいましたので、ちょっと明るくしましょう。主人公たちのクラスメイト、友達三人衆について。
河野 委員長(水谷)と堀さんと佐々岡……佐々岡でよかったよな、確か。
――: どうかしましたか?
河野 いえ、「つれづれ」の主人公が「佐々波」だったので、最後の方までどうしようか考えてましたので。
個人的に「ささ」という音が好きすぎて、つい使っちゃうんですよ。「サクラダ」にもふたりいましたし。
――: 河野裕作品を読むうえで「ささ」という音には要注目ですね!
河野 しなくていいです(苦笑)。
それはさておき、あの三人を今後掘り下げていくというのは間違いないです。どれくらいか、という具体的なことは何も言えませんが、何かしら「あぁ、こういう人たちなんだな」と分かるようには。
――: それこそ、佐々岡なんかは特に気になるキャラですよね。彼だけは読み終えてもちょっと階段島に来た理由が見えてこない感じがします。委員長と堀さんは、その辺がまあ分かりやすい気がしますが。
河野 佐々岡はゲームのBGMを聞いている理由とか、目に見えて説明していない部分がけっこうありますね。もちろん、委員長や堀さんについてもしっかり掘り下げていきますよ。
――: 続編が楽しみですね!
河野 がんばって書きます。


■■今後の河野裕

――: じゃあ、続編への期待が高まったところで、今後の作品についていろいろ聞かせてください。
河野 階段島シリーズに限らず?
――: 読者の方も気になるでしょうから、「つれづれ」やその他にも何かありましたら、ぜひ。
河野 「つれづれ」は何とか4巻を年内に出したいと思ってます。で、「階段島」の続編が春頃を予定しています。
今はちょうど「つれづれ」の4巻を書き始めているのですが、これから
ずっと書きたかったところに踏み込んでいくので、書くのが楽しみですね。
――: いいことを聞きました。
「階段島」シリーズも、続刊が楽しみなのはもちろんですが一読者として『いなくなれ、群青』に関してのみ言わせていただくと、もっと若い時に読んでおきたかったな。高校生とか。
河野 たしかに、若い人は若い人で違った実感はあると思います。
――: 変な話、私は30歳なんですが、この年齢だからこそ分かるところってのは間違いなくあるな、と。この世界の大人の悲しさとか(苦笑)。
河野 こだわりますね(苦笑)。
――: だから、高校生くらいではじめて読んで、2年3年おきくらいで繰り返し読んでいけたらよかったのになぁ。あるていど年取ってからとか、若い時に読むだけとかだともったいない感じがします。そういう意味で、青春小説の一つの金字塔として、幅広い世代の人に長く読んでいってもらいたいなぁ、と。
いや、この期に及んで個人的な感想で恐縮ですが。
では、そろそろ最後になりますので、河野さんからもぜひ読者のみなさまに一言!
河野 いきなりですね。
読んでくださった方は、本当にありがとうございます。とても好き勝手に書きましたので、もし気に入っていただけると非常にうれしいです!
――: まだ読まれていない方も、間違いなく楽しんでいただける作品ですのでぜひご一読ください。
ということで、今日はどうもありがとうございました。
河野 ありがとうございました。



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