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2015年11月 著者インタビュー(3)

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『風穴屋旋次郎』
インタビュー

白泉社から創刊されたばかりの時代小説シリーズ『招き猫文庫』から『風穴屋旋次郎』11月5日に発売されました。
作者はグループSNE友野詳
天保の改革下。人呼んで「風穴屋」の旋次郎。
鍛え上げた拳と機転を武器に、今日もまた、追い詰められた庶民の窮状に「風穴」を開けるという痛快時代小説となっております。
今回著者である友野詳に、無謀にも時代小説が初めてである黒田が話を聞くという、挑戦的なインタビューになっています。
そんな人間の目に「風穴屋旋次郎」はどう映るのか? その模様をご覧ください!
2015年11月
記事作成 黒田尚吾


―風穴屋旋次郎が生まれるまで―

―― よろしくお願いします。
友野 よろしくお願いします。
―― 今回インタビューさせていただくのが『風穴屋旋次郎』と、いう事で。実は入社するまであんまり本読んでなかったんですよね。
友野 おいおい。普段から読んどきなさいよ(笑)。
―― へへへ。でもインタビューすることになったのがきっかけで色々な作品に触れる機会が増えたんですよね。ありがたい話です。
友野 なるほど。
―― まずは、初歩中の初歩な質問で申し訳ないんですが、どういった流れでこの作品を執筆、出版する流れになったんですか?
友野 今回は招き猫文庫の担当編集さんからお声かけがありまして。
―― 招き猫文庫さんは最近のレーベルなんでしょうか?
友野 ええ、新興の。去年立ち上がったキャラクター時代小説のレーベルですね。シリーズ立ち上げの際にグループSNEとも親しい深沢美潮さんとかあかほりさとるさんが書いていらっしゃったんで、読みました。『風穴屋旋次郎』に関していえば僕の時代小説としては3つ目のタイトルになりますね。
―― で、私、初めての時代小説で。
友野 はははは(笑)。


―世界設定―

―― 少しライトノベルの要素が入っていると読む前に友野さんにお伺いしてて、実際読んだんですが、なるほどな、と。例えば、ものすごいキャラが立ってたりとか(笑)
友野 物語の運びの整合性や時代考証性よりかは、勢いとか意外な展開の面白さとかそっちの方を重要視してますね。そこにライトノベル的な楽しさがある作品だと思います。
―― 主人公は『旋次郎』という真っすぐな男。高田屋という呉服屋で起こっている事件に迫る所から話は始まるんですが、あれよあれよという間に物語が二転三転していくという……あんまり言うとネタバレになっちゃうんでざっくりと言えばそんなお話ですよね。
友野 はいはい。
―― こういったお話を考えるときにどういった順でプロットを立てるんですか?
友野 人や作品によって千差万別だけど、僕は基本的に設定から作るタイプです。
―― 世界観からいくイメージですか?
友野 そう、そこから入る。
―― それってなんか、TRPGの世界を作っていくのに似てますね。
友野 一緒一緒。だから僕はワールドガイド書くのが一番好き。モンスター設定作ったりとか(笑)。
―― あははは(笑)
友野 昔、あかほりさとるさんが飲んでるときに、あかほりさん自身はキャラクターから、水野良先生はストーリーを作る作家さんで、友野ちゃんはシチュエーションや設定を作っていくよねー、というお話をされていて非常に腑に落ちたことがあるんですけど。ああ、せやなーって(笑)。
―― 作家さんによって切り込む方法が全然違ってくるんですね。
友野 違ってくると思うね。ある人物がコレコレこういうことに出会うみたいな事から決めて書く方もいるでしょうし、キャラクターの性格なり特色なりポンと決めた状態で出てきてストーリーを決めていく方もいらっしゃるでしょうし。


―キャラクター―

―― 主人公である『旋次郎』なんですがパンチきいてますよね。
友野 ありがとうございます、パンチが得意技なので。ひたすらパンチしますからね、彼は(笑)。
―― ズガーンと入ってくるんですよ、キャラが。で、その真っすぐで破天荒なキャラの肉付けはどうやって決めたんですか?
友野 僕がキャラクター決めるときはまずキャッチ―な特徴を作るようにしてて、名前を決めるときも二つ名を作っていくパターンがあります。ちなみに主人公の最初に決めた二つ名は『カチ割り屋』でした。
―― 荒々しいですねー(笑)。
友野 お江戸の悪をカチ割るぜ! みたいなね。ド頭カチ割ってやる! とか決め台詞考えてたんですけど、さすがに昭和的過ぎるかなと。ただその時に、物事を真っ向からぶっ叩く方がヒーローとして爽快でいいかなとー。
―― 『カチ割り屋』って敵の二つ名みたいですからね。
友野 今回出せなかったんですが一応ライバルとして『カチ割り屋』を設定してありますので。
―― あはははは、見たい見たい!
友野 シリーズ上手く続けられたら出したいなと(笑) 『カチ割り屋の権太郎君』
―― 良いですねー。
友野 旋次郎君のライバルで、性格も似てる感じの荒々しいブサイクゴリラ系ですよ。モテない感じの。でも今回それ出すと濃すぎるんですよ、既に旋次郎君が設定の過積載気味なんで。ともあれ、そういう流れがあって風穴屋という設定が生まれました。
―― では、その主人公ありきで今度はサブキャラクターをお作りになられたんですか?
友野 ええ、そうなりますね。
―― ここで物語上、便利なキャラクター作ろうとかにはならないんですか?
友野 そうやって出来てくるキャラもいます。でも主人公側は最初に作っておくことが多い。要は僕の小説の作り方って1人RPG1人セッションなわけですよ。で、まず主人公パーティーを作る。で冒頭のプレイヤーの気持ちを掴むシチュエーションと事件の真相を決めておくと。で、そっから動かすわけですよ。
―― あとは真相に向かってどういった手順で向かっていくか、ってことですか?
友野 そうそう、かわるがわるにプレイヤーとして登場人物を動かし、適宜切り替えてGMとして状況を転がしていこうと。
―― そういう作家さんってあんまりいないんじゃないですか?
友野 どうだろう、あんまりいないのかな。
―― それってTRPGありきの考え方なので。
友野 こういう形で意識してる人は少ないと思うけど、『キャラが勝手に動き出した』とか『何気なく登場させたキャラクターが思いもよらない肉付けされてメインキャラになっていく』っておっしゃる作家さんって多いじゃない? だからそれは同じような事をやってるんだと思います。それを僕は1人RPGとしてとらえていると、そう思うわけですよ。
―― じゃあ、その過程で敵とかが出てくるわけですが、いわば敵って主人公を引き立てる影なわけじゃないですか。そういったキャラをお作りになるの好きそうだなって小説から感じたんですが、実際敵キャラ作るのはお好きですか?
友野 好きですね。敵と脇役作るのが一番楽しいよ、主人公作るのはしんどい(笑)。
―― でも最初に作るんですよね?
友野 うん、だって主人公がドシッとした土台を作ってればあとはコロコロっと遊んでればいい。敵なんかは筆の滑りでどんどん変わります。属性ついたりとか特徴ついたりとか色々。自分でも思わぬ展開が生まれたりもします。
―― さっきも言った『キャラが勝手に動き出す』ってやつですね。
友野 『ここで退場させるのは惜しくないか?』とか『ここで覚醒した力使ってもええんちゃう?』とかキャラが言うてくるわけですよ。


―テンポの良さ―

―― そういった作り方だからなのかもしれませんが、この小説すごくテンポがいいなって思ったんですよね。
友野 ありがとうございます。そのテンポについては気を使いましたね。というか書いてる自分が飽きる。そもそも旋次郎がじっくりじっくりというタイプではないので(笑)
―― ねっとり思考する感じではないですもんね。それが悪いわけじゃないですがこの主人公には合わない。
友野 ルナルなんかはグダグダ主人公が延々悩み続けますからね。
―― 全然違いますね(笑)。
友野 旋次郎はまっすぐですよ。
―― その旋次郎のまっすぐさとテンポの良さがすごくマッチしてる気がしてて、それが読んでて気持ちよかったです。
友野 よかった、そう読んでもらえたなら俺の工夫がちゃんと生きている。
―― 意識してましたか。
友野 意識してましたよ。でも彼の真っすぐな性格をそのままぶつけたら半分ぐらいでお話が終わっちゃうんですね。だからいかに彼を横から蹴倒して道をそらせて、またどうやって道をもとに戻させるかっていう。
彼はバカではないし色々器用なので、いかに変則な手を使わせるか苦労しました。だからこそあっち行ったりこっち行ったりのテンポができたんだと思います。ただ意味なくそれをやるとグダグダとしたお使いになってしまうのでそうならないように工夫しました。
―― 私、本を読むスピード遅いんですが『風穴屋旋次郎』に関しては1日で読んでしまいました。スピード感があるのに加えて、その先で色んな仕掛けやあっと驚く事実が転がり込んでくるので先が気になりますし、退屈しないといいますか。
友野 一気にバッと読んで『ああ、楽しかった』って言って後に特に何も残らないっていうのが娯楽時代物の役目だと思っているので。でも『また読みたいな』とか気持ちが落ち込んだとき、ふっと手に取ってもらえるような。そういう話になっていればいいなと思って書いてます。


―戦闘―

―― あと、個人的に私は男の子なので、戦闘シーンがちょこちょこあるのが好きですね。迫力があるだけでなく駆け引きとか仕掛けがちりばめられてて飽きないし。ネタバレになっちゃうんでこれもまた詳しくは言えませんが(笑)
友野 戦闘シーンで仕掛け入れないと気が済まない(笑)
―― TRPGプレイヤーの、ゲーマーの血がね。
友野 敵の能力とか、この特技をどこで使うかとか考えながら書くんです。
―― それが駆け引きにつながるんですよね。
友野 この技能はシナリオで1回だけ使えるから、いつ使うかを考えたまえと。
―― 是非楽しみにしていただきたいですね。
友野 そこはやっぱり、25年間戦闘シーンは磨きをかけてきましたので、頑張ってます。


―最後に―

―― 『風穴屋旋次郎』を読んで、エンターテイメント色が強い作品だなって思いました。謎要素も戦闘も、個性の強いキャラクター達の思惑が絡み合う人間模様も入ってて『これぞ娯楽!』って感じがします。
友野 エンタメ時代劇の基本ですよ。
―― でも、それが無理なくこの世界に収まってるのは、最初に世界設定をしっかり作ってるからこそなのかなって、インタビューしてて思いました。
友野 時代劇ってことで時代の設定はあるんだけど、ただその中でも『考証リアルに行き届いた江戸時代』にするか、『まぁええやん細かいことはみたいな江戸時代』にするか。例えば夜中に町民がフラフラそうそう出歩けないよとか、そういう細かい事もあるんですが、ここはどちらかと言えば娯楽寄りの作品ですので細かい事は目をつむってください、というところの世界観、世界設定で書きました。昭和の世代なんで時代劇ドラマとか映画とか血肉には流れているので。
―― 私小さい時に『3匹が斬る』がすごく好きだったんですよ。それを思い出して。江戸の設定がそこまで凝ってないんでしょうがその中でも、あれってちょっとコミカルな所もありつつ、ほろりとする所もありつつ。人間模様が面白いといいますか。
友野 時代劇における人情ってやつね。
―― それそれ!何でそれが頭に浮かんだのかな。
友野 そこ狙って書いてますからね(笑)。後期必殺シリーズとか現代の風俗を、江戸時代にからめてましたが、ああいうノリです。
今回の冒頭の事件なんかは最初の敵はクレーマーですよ、炎上させて罪があるかないか分からない人を叩きに行くみたいな。それってネットの炎上と変わらなくて時代超えても人間の本性って変わらないじゃん、みたいなのを書いたりもしたんですけど、やっぱりそこは江戸時代が21世紀になろうが変わらないエンターテイメントの一部分じゃないかなと思うので。
―― だからこそ時代小説読んだことのない僕でも楽しめたんですね。
友野 そう、時代小説読んだことのない人にも読んでほしいですね。言葉使いとかもあえて現代っぽくしてますし、時代小説入門という事で読んでいただけるといいかなと。
―― 今後先が気になります。
友野 伏線と言いますか、そういうのも入ってますので僕としても続きが、権太郎とかも出したいし、旋次郎君の様々な素性も『何かありそうやなー』ってセリフもはいてるんでね。
―― 最後に、一言お願いします。もしかしたらもう『風穴屋旋次郎』読んでる方がこれ見てるかもしれませんし、読む前に見てるかもしれませんが。
友野 気楽に読める一瞬でも憂さを忘れるスッキリした時代チャンバラものになってたらいいなと思いながら書いておりますので、是非そういった時に手をのばしていただけるとありがたいです。ちなみにチャンバラものと言いつつ主人公一回も刀抜きませんので。
―― 「抜刀しない、グーパンで」
友野 常にグーパンで。ちょっと今、気が付いたけど、そう言うとワンパンマンみたいですね。
―― 先読みしてますね、時代を。
友野 後、例によって名前に小ネタ入っておりますのでわかる人だけ分かってください(笑)。
―― 日々の退屈な生活に風穴を開ける……
友野 良いフレーズを言った!
―― ありがとうございます。使ってやってください。
友野 というわけで、退屈な日々に風穴をあける『風穴屋旋次郎』よろしく!


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