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TOP > ユーザーコンテンツ > 著者インタビュー > 『魔術師の帝国《1ゾシーク篇》』(2017年01月)
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『魔術師の帝国《1ゾシーク篇》』

 〈アダルト・ファンタジー〉という言葉をご存じでしょうか。
 1960年代後半、アメリカのバランタインブックスという出版社で、リン・カーターという編集者が出していたシリーズ、それが〈アダルト・ファンタジー〉です。歴史に埋もれた幻想文学の名作を発掘し、提供するというものでした。また同じころ、アメリカの若者のあいだで、『指輪物語』やクトゥルフが大人気でした。

 まさに、幻想文学に大きな波が来ていた時代。

 そのころ日本で、ひとりの若者が翻訳家としてデビューします。彼による最初の編訳書は、クラーク・アシュトン・スミスの『魔術師の帝国』でした。
 お気づきですか。われらがグループSNEのボス、安田均です!

 今回、その思い出の『魔術師の帝国』が、〈ナイトランド叢書〉シリーズの1冊として新編復活することになりました。
 そこに至ることになったいきさつ、スミスの魅力、ゲームとの関わりなど、安田均に聞くことができました。翻訳家としての秘めたる熱い想いを、ぜひお楽しみください。


 『魔術師の帝国『1 ゾシーク篇』(ナイトランド叢書)

クラーク・アシュトン・スミス
編:安田均
訳:安田均・荒俣宏・鏡明
発行:アトリエサード
発売:書苑新社
2017年01月発行
記事作成:柘植めぐみ


1.若いころの安田均とは
―― 本日は、2017年1月26日発売の『魔術師の帝国《1ゾシーク篇》』について、ボスこと安田均に話を聞きたいと思います。
安田 インタビュー、待ってました!
―― は、はい?
安田 じつは〈ナイトランド・クォータリー〉というホラー&ダークファンタジーの雑誌があって、その「Vol.07 魔術師たちの饗宴」(現在発売中)でインタビューを受けたんだ。けっこうしゃべったつもりだったんだけど、『魔術師の帝国』そのものについては、それほどでもなかった。読んだ人たちからは「もっと!」と言われてしまって。
―― おお。ではインタビュアー、がんばります
安田 よろしく。
―― さて。いまの若い人たちはご存じないかもしれませんが、「安田均」の経歴は、じつは翻訳家から始まるんですよね。
安田 もともと翻訳家志望で、そこからストーリーとゲームの融合であるRPGに関わっていったんだ。もちろん、ゲームはずっと好きだったけどね。
―― 日本で最初に『アクワイア』(ホテルチェーンを扱ったシド・サクソンの名作。1964年)を遊んだなかのひとりじゃないですか。
安田 言いすぎだよ(苦笑)。でも確かにアメリカやイギリスのゲームをよく遊んでいたなあ。ドイツゲームの存在に気づいてからはそっちが多くなったけど、源流は英米だからね。
―― 翻訳を始められたころは、おもにファンタジーSF(サイエンス・フィクション)を手がけておられましたよね。
安田 最初に翻訳に関わったのが、〈幻想と怪奇〉という雑誌だったんだ。これは1973年に創刊された幻想文学の専門誌で、2年ほどつづいた。同じころ、創土社さんでなにか、という話になって、ぼくは『魔術師の帝国』をやりたいと言ったんだ。
―― ブックスメタモルファス〉というシリーズですよね。
安田 仁賀克雄さんの『暗黒の秘儀』、紀田順一郎さんの『ブラックウッド傑作集』、荒俣宏さんの『ペガーナの神々』『ダンセイニ幻想小説集』などが出ていたね。
―― そうそうたるラインナップですね。でもスミスが活躍していたのって、1920年代~40年代じゃないですか。ずいぶん時代が経っているように感じるのですが。
安田 ちょうどあのころ、トールキンの『指輪物語』やルイスの『ナルニア国物語』といったファンタジー、そしてラヴクラフト、ブラックウッドなどの怪奇小説、まさしく〈幻想と怪奇〉と呼ばれるような分野――二つ合わせたものが、雑誌の名前になってる(笑)――が広がっていたんだ。ぼくはどれも好きだった。ミステリーはすでに認知されて、SFも広がり始めていたけれど、幻想怪奇小説はまさに「これから」という時期だったね。
―― それでどうしてスミスなんですか?
安田 当時、アメリカではパルプ雑誌ペーパーバックの流れが目について、そのなかの〈ウィアード・テイルズ〉派のクラーク・アシュトン・スミスという作家を知ったんだ。1970年代前後、ぼくが大学に入ったころかな。バランタインブックスのリン・カーターという人が幻想文学をよみがえらせようと、ペーパーバックで叢書的なものを始めた。
―― それが〈アダルト・ファンタジー〉?
安田 うん。まさにドンピシャの企画だった。トールキンラヴクラフトの作品から始まって、1920年代にノーベル賞候補になりながら完全に忘れ去られたジェームズ・ブランチ・キャベルという幻想小説の大家の作品とか、つぎつぎと面白いものを出してくれたんだよ。
―― そのなかにスミスのものもあったんですね。
安田 うん、4冊。どれも人気だったと思う。あのころ楽しくてしょうがなかったなあ。ぼくの翻訳の原点は、この叢書にあると言っていい。
―― へええ。なんとなく、ボスの原点はSFだと思っていました。
安田 もちろん、それもあるよ。ぼくの原点は2つ
―― ふむふむ。
安田 人って、どういう本を買っていくのかで指向性がわかるものだけど、ぼくの場合、大学1年のときに古本屋で、バランタインブックスのSF叢書がメインで300冊くらい3万円で出ているのを見つけたんだ。どうしてもほしかったけどお金が足りなくて、「1万5千円しかない。残りも必ず払うから取っておいてくれ」と頼んだっけ。
―― (笑)
安田 あれがなければ翻訳家になろうとは思わなかったかもしれないな。
―― すごい巡り合わせですね。
安田 そしてもう1つの原点が、〈アダルト・ファンタジー〉シリーズ。こちらは京大でSF同好会を一緒に再興した山田修くんが幻想怪奇小説に詳しくて、教えてもらったんだ。
―― アダルトって言われるとちょっとエロっぽいですが、そういうアダルトじゃないんですよね。
安田 うん。あ、いや、エロもぜんぜんないわけじゃないけど。生田耕作先生とか(笑)。
―― 大人のための幻想小説、という感じでしょうか。
安田 いまで言うライトノベル、ちょっと前のハイ・ファンタジーのもとになった、最初の怪奇幻想小説「紹介熱」みたいな流れだろうね。『指輪物語』の翻訳はまだ出てなくて、大学で誰が最初に原書を全部読むか勝負したっけ。
―― ほう。その勝負、どうなったか気になります。
安田 ぼくは挫折(笑)。でも広田耕三くんは読んでた。彼には『魔術師の帝国』でも翻訳を手伝ってもらうことになるんだけど……。
―― すみません、話を戻しましょう。その〈アダルト・ファンタジー〉シリーズに、スミスの本が4冊あったんですよね。
安田 それぞれ異なる世界を舞台にしていてね。ゾシークという地球最後の大陸、ハイパーボリアという氷河に覆われようとする極北の大陸、ジッカーフという他の惑星を舞台にした星々の物語、ポセイドニスという沈みつつある世界、この4冊。そして最後に、出なかったけれどアヴェロワーニュという中世の怪物たちが跋扈する世界。
 
―― どれもアンソロジーなんですよね。
安田 いまならよくわかるんだけど、ぼくはもともと短編小説が好きだったんだろうね。スミスの作品は世界が独特で、ほとんどそれがメインと言ってよい。当時、創土社井田一衛社長や紀田さん、荒俣さんが、「つぎはなにをやろうか」という話をしているときに、スミスをやらせてほしいと頼んだんだ。当時の〈アダルト・ファンタジー〉の息吹を伝えたかった。
―― すごい歴史ですね。
安田 1972年、大学4年生のころかな。ぼくはそのころ、SF研のつぎに、幻想文学研究会というものに加わっていた。翻訳は、一緒に活動していたいまも現役の翻訳家である大瀧啓裕さん、さっきも話にのぼった山田修くん、広田耕三くん、西田清明くんと、米田守宏くん、あと同志社SF研の渡辺広蔵さんなどとね。
―― あれ? それならなぜ、創土社版の表紙に「安田均編」と書かれていないんですか?
安田 おいおい、当時のラインナップ、荒俣さん、紀田さん、仁賀克雄さんだよ。ぼくみたいな大学生の若造(笑)。だから幻想文学に造詣の深い京大の蜂谷昭雄教授のところに行って、代表訳者としてお名前を使わせていただいたんだ。
―― 企画も編集もボスだったんですね。まさにこだわりの作品。
安田 最初の編訳書だからね。それを今回、アトリエサードさんが出したいとおっしゃってくれて、すごく嬉しかった。
―― ええと、43年ぶりですか。すごいですね。
安田 あ、そうだ。ひとつ言っておきたいんだけど、当時の創土社さんと現在の創土社さんは経営母体も違うし、別会社だと思ってほしい。今回、なぜ創土社さんから復刊しないんだ、と言われる方もいらっしゃったので。
―― 当時の創土社の社長さんはどんな方だったんですか?
安田 井田さんは〈ブックスメタモルファス〉を作った人だよ。ぼくも当時、詩とか直してもらったし、『魔術師の帝国』の装丁もされていたんだ。
―― へええ、すごい。
 
2.新・『魔術師の帝国』
安田 今回の新編復活にあたって、山田くんや広田くんにも見直しをしてもらった。大半はぼくの方で手を入れたけどね。
―― でも当時の文章を大事にされたとか。
安田 だって、当時の熱意はすごかったから! 雰囲気をできるだけ削がないようにしたよ。
―― スミスって、翻訳しにくい作家ですか。
安田 日本語になりにくいかな。独学の人で、百科事典を読み通して語彙を増やしたとか(苦笑)。だからかな、もってまわった修飾句とか癖のある言葉使いが多い。
―― そういや、台詞も少なめですよね。
安田 世界観とストーリーの小説だね。千夜一夜的な感覚があると思う。
―― 読み聞かせている感じですね。
安田 キャラクター小説ではないよね。滅びていくキャラクターがいっぱいいるし。地球が滅びていくなかで、死霊術師(ネクロマンサー)が暗躍するような話だから。そのなかでどう生き延びるか。
―― 独特の言い回しも多いですよね。
安田 植物関係とか、段丘(テラス)とか。今回、直したけど基本的には昔の訳を大切にした。
―― スミスの特徴は、やっぱり世界観ですか。
安田 そうだね。詩人でもあって、イメージ世界をメインに書く。長いプロットとか、キャラクターを描くタイプじゃないね。
―― 先ほど短編の作家だとおっしゃっていましたが、長編はないんですか
安田 ないよ。短編が80くらい。詩集はたくさんあるけどね。
―― それだけ短編があるなかから、どのように作品を選ばれたんですか?
安田 くり返すけれど、ぼくがやりたかったのは〈アダルト・ファンタジー〉の流れのなかのクラーク・アシュトン・スミス! だから『魔術師の帝国』の作品の順番も、リン・カーターにならっている。書かれた順番とかじゃなくて、内的流れというか、ゾシークの世界のなかの時代順というふうに。
―― こだわりがあるんですね。
安田 地図も描いた。〈アダルト・ファンタジー〉のクラーク・アシュトン・スミスを形にしたかった。〈ウィアード・テイルズ〉や〈アーカム・ハウス〉や研究書より、自分が面白いと思ったもの熱中したものを訳したいということで。そのあたりをお含み置きください。
3.ゾシークの世界
―― 今回の『魔術師の帝国《1ゾシーク篇》』に収められている短編と、ゾシークという世界についてお聞かせください。
安田 まず、タイトルにもなっている荒俣宏さんの「魔術師の帝国」、長めの話として鏡明さんの「暗黒の偶像」がある。この二作が先に訳されていたので、地名とかはならう形でもある。
―― ほかはボスの訳ですよね。とくにお気に入りのものはありますか?
安田 いちばん好きなのは巻頭の「ジースラ」かな。これも千夜一夜風で、時のせつなさを見せるのがすごく上手い。
―― ゾシークって、いまにも滅びゆく世界のなかで、それでも生きている人たちを描いている感じですよね。
安田 うん、ぼくはとても好き。〈時の果ての世界〉、こういうテーマが好きなのかな。たとえば、ブライアン・W・オールディスの『地球の長い午後』、ジャック・ヴァンスの『終末期の赤い地球』、エドモンド・ハミルトンの『時果つるところ』(これは前半だけ)。
―― そういう世界で、死霊術師が活躍するんですよね。
安田 魔術といえば、なぜかここでは死霊術。いまでこそネクロマンサーという言葉はなじみがあるけれど、当時は新鮮だった。
―― ゾシークは、冒頭に地図があるのもいいですよね。
安田 あれ、ぼくが作ったんだよ。
―― えっ?
安田 リン・カーターの本にも地図はあることはあったんだ。でもあまりにぞんざいだったので、自分で作った(笑)。作品を読みながら、ここはこうだろう、と。最近になってd20システムのRPGでゾシークを舞台にしたものが出たんだけど、そこにあった地図がほとんど同じだったので嬉しかった。
―― でも大変だったでしょう?
安田 楽しかったよ。なんたって、ファンタジーは地図だし。
―― わたしも地図は好きです。話を戻して、他の収録作品についても少し教えていただけますか。
安田 たとえば、スミスの特徴でもある植物怪談的な「アドンファの園」。それから、結末の予想はなんとなくつくんだけど、ストーリー性があって、ちょっとユーモラスな「最後の文字」。
―― ユーモラス
安田 うん、けっこうスミスってユーモラスなところがあるんだよ。たとえば「死霊術師の島」では、ある人物が首をすぱっと斬られるんだけど、首の皮1枚残って、そいつが衣に噛みついて放さないから、それを脱ぎ捨てて裸で逃げるとか。
―― 確かに。怖いシーンなんですけど、想像すると笑っちゃいますね。
安田 このあいだ気づいたんだけど、地域性というのもあるんだろうね。ラヴクラフトはねちねちっとした暗い感じがあるけど、スミスカリフォルニアの人なんだよね。なるようにしかならないじゃん、っていうあっけないところがある。
―― なるほど。
安田 もちろん、ラヴクラフト的なホラーもあるよ。たとえば「忘却の墳墓」、あれはいかにもクトゥルフ風のぞっとする話。
―― バラエティに富んだ作品群ですね。
安田 うん。バラエティには気を配った。
―― それが8篇
安田 ゾシーク』には本当は16篇あるんだ。興味を持った方は、大瀧啓裕さんが全部訳されているのでぜひ読んでください(『ゾティーク幻妖怪異譚』創元推理文庫)。
4.ゲームとの関わり
―― もう1つ、お聞きしたい重要なことが。さっきd20の話もありましたが、スミスの世界は『ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)』のシナリオにもなっているとか?
安田 1972年にぼくが翻訳に取りかかったときは、まだ『D&D』はなかったけどね。本が出た1974年に、『D&D』も生まれたんだ。そして、シナリオでスミスを大々的に取り上げている。
―― スミスとゲーム、どちらもボスの好きなもの……。
安田 スミスが好き、ゲームが好き――うん、じつはもとから合致していたんだろうね。最初から同じラインにあったんだ。
―― 好きなものが結びついていくのって素敵ですね。
安田 でも不思議だよね。
―― その『D&D』のシナリオがこれですか。
 
安田 新和さんから出ていた、エキスパートセット用のシナリオ第2弾、『アンバー家の館(Castle Amber)』。舞台はアヴェロワーニュ。
―― いかにもファンタジー的な中世の世界観ですよね。
安田 うん。それを『D&D』で遊ぶとこうなるんだ、というもの。ほら、世界の地図もちゃんとあるよ。
―― うわあ、すごい!
安田 それに巻末にはちゃんと、どの作品を参考にしたか挙げてあるよ。ちゃんとスミスの財団から許可を得ていたらしい。
―― ゲームをやる人のなかには、それだけスミスが好きな人がいるんですね
安田 なじみやすいファンタジー的な怪異譚といえば、アヴェロワーニュだろうね。吸血鬼人狼ラミアも出てくるよ。
―― うわあ、面白そう。遊びたくなりますね。でもそれより……。
安田 それより?
―― ボス! スミスの世界でゲームを作りたくなりませんか?
安田 もちろん
―― おおっ!
安田 ぼくの場合は、ぜひゾシークを舞台にしたいね
―― 終末の世界ですか。確かにああいう世界を舞台にしたRPGはあまりなかったかも。
安田 AD&D』の『ダークサン』とかあったけど、そのくらいだよね。
―― いいですねえ。
安田 だろう? 『ゾシーク』『地球の長い午後』『終末期の赤い地球』のような世界観の設定で、いつか作りたいね。
―― うわあ、楽しみです。
5.最後に
―― では、これからのお話を。
安田 魔術師の帝国』はまだ、ハイパーボリア惑星ジッカーフなどを舞台にした星々の物語、それにポセイドニスの話が残っているからね。それらが次巻に収録されるよ。
―― 次巻には訳し下ろしもあるとか?
安田 惑星ジッカーフの話が「花の乙女たち」しかなかったので、今回、「マアル・ドゥエブの迷宮」という短編を新たに訳したんだ。
―― それは嬉しいですね。
安田 いま解説を執筆中。第2巻2月発売かな。
―― にしても、第2巻? ということは……?
安田 この先のことは、アトリエサードさんにお訊きください(笑)。でもじゅうぶんに期待していただいてよいかと。
―― 最後に、ひと言いただけますか。
安田 これからも〈アダルト・ファンタジー〉などに入った幻想文学がもっと訳されていくと嬉しいですね。未訳の面白いものが、まだまだありますから。みなさんに、アメリカにラヴクラフトと並んでこうした非常に独創的、個性的な作家がいたことを知ってもらえたらと思います。楽しんでください。
―― 今日はありがとうございました。


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