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『GMマガジン』&『TtTマガジン』インタビュー

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『ゲームマスタリーマガジン』創刊記念インタビュー

『TtTマガジン』編集長に聞く!

 それでは、引きつづき雑誌特集ということで『TtTマガジン』(「トンネルズ&トロールズ」専門誌:年3回刊行)の編集長、FT書房の杉本=ヨハネさんからお話を伺います。


1.「T&T」Tとの出会い
―― 本日はよろしくお願いいたします(緊張気味)。
杉本 よろしくお願いします(同じく少々緊張気味)。
―― まず最初に杉本さんと「トンネルズ&トロールズ」(以下「T&T」)の出会いについて教えていただけますか。
杉本 元々「ファイティング・ファンタジー(以下「FF」)」という社会思想社のゲームブックが好きだったんですが、『T&T 恐怖の街』というソロ・アドベンチャーが同じ棚に並んでいて、それを手に取ったのが最初の出会いですね。
―― 「FF」に『恐怖の街』ですか、懐かしい!
 
「ファイティング・ファンタジー」シリーズ
スティーブ・ジャクソンとイアン・リビングストン(後に多くの作家が参加)によるゲームブックシリーズ。1982年『火吹山の魔法使い』からはじまり多くの傑作を生み出した。
日本では1984年、同書が社会思想社から出版され、以降のシリーズも高い人気を博した。1985年にはテーブルトークRPG『ファイティング・ファンタジー 基本ルールブック」(東京創元社/原書Fighting Fantasy - The Introductory Role-playing Game;1984)も出版された。
『T&Tソロ・アドベンチャー 恐怖の街』
T&Tソロ・アドベンチャーシリーズ第3作として1988年社会思想社から出版された(著マイケル・A. スタックポール他 翻訳:安田均、清松みゆき)。『サルクティの魔除け』が同時収録されている。
―― 最初の出会いはRPGでなく、ゲームブックだったんですね。
杉本 はい、ゲームブックは子どものころに兄がやっていて、家にあったんです。RPGは小学生のころに『ファイティング・ファンタジー』の「願いの井戸」をやったのが最初ですね。『恐怖の街』を遊んだとき中級レベル以上が対象だったため、ルールブックが必要になったんです。そこで、これはあの「ファイティング・ファンタジー」でやったRPGというのができるんだってわかって、仲間を集めてやるようになりました。それが12か13歳ぐらい、中学生のときでした。
―― そのころRPGを遊んでる友だちはたくさんいらしたんですか。
杉本 いやまったく。それで、クラスの3分の1くらいの男子を「T&T」に巻き込んで遊びました。何をするかは言わずに、ぼくの家で遊ぼうと誘って、好きになったメンバーが残っていった感じですね。
―― そのままずっとT&Tを?
杉本 高校受験までずっとやってました。「FF」のゲームブックは1人で遊んでいたんですけど、やっぱりみんなと遊ぶほうが楽しくて。
―― それから2016年に『TtTマガジン』を刊行されるまでに色々な経緯があったと思います。
杉本 そうですね、大学受験のときにいったん離れたんですが、大学に入ってからはまた「T&T」を。
―― やっぱり「T&T」なんですね。
杉本 はい、やっぱり「T&T」です(笑)。もちろん『女神転生』にはまった時期もありますし、RPG経験者に出会って『ソード・ワールド』も体験しました。じつはプレイヤーをやったのもそれがはじめてなんです。
―― それまでずっとゲームマスター(GM)をされてたんですか? だったら新鮮だったでしょう?
杉本 でしたね。ただ、正直GMばかりやってると、その敵は引っ掛けだなとかシナリオの構造がわかってしまうことがあるんです。でも、なんとなくGMが嫌そうな顔をするのを感じて、控えめにしたほうがいいな、と(笑)。それからは、ぼくはやっぱりプレイヤーよりもGM専門で行こうかと思ったりしました。
 
 杉本=ヨハネさんの長いGM歴を語る一つの逸話。
 とある大規模なゲーム大会でのこと。グループSNEの物販に可愛い女の子たちが群れをなして『T&T完全版』を買いにきてくれました。話を聞いてみると、体験卓で遊んだ「T&T」がとてもとても楽しかったとのこと。彼女たちのGMを努めたのが杉本=ヨハネGMでした。その実力や、恐るべし。
杉本 大学ではボードゲーム研究会に所属してたんですけど、ボードゲーム好きの人を「T&T」に巻き込んでいきました。「T&T」には自分たちでオリジナルをルールを作っていけみたいなことが書いてあったので、どんどん加えていって、大学時代に3冊ぐらい同人誌でハウスルールを出しました。あと400パラグラフのソロ・アドベンチャーも1冊書きました。
―― 400パラグラフ? 『死の女神の口づけ』より長いですよ。
杉本 長いですね(笑)。
 
『死の女神の口づけ』
 2017年6月、グループSNEの「T&Tアドベンチャー・シリーズ」第二弾として刊行。表題作は総パラグラフ数350からなるケン・セント・アンドレの力作ソロ・アドベンチャー。帯に「T&T史上最長」と書かれています(笑)。リック・ルーミスによるソロ・アドベンチャー『バッファロー・キャッスル』も同時収録。
杉本 でも、ルールを作れば作るほど「T&T」から離れていくな、というのがわかってきて。ゲームで大切なのは単純なまま遊びやすく、必要なことを満たしていくことなんだって大学6年かけて学びました。
―― シンプルなルールで広範囲をカバーできるのがベストですよね。
杉本 そうです。「T&T」の最大の魅力もそれだと思っています。
―― 今回、いちばんお聞きしたかったのはそこだったんです。「T&T」の何がそれほど杉本さんを惹きつけてきたんでしょう?
杉本 大きく分けて2つあるんですが、1つは「リアリティ」ですね。たとえば「T&T」では戦士の防御点40点にまで上がります。けれど、ヒットポイントに当たる耐久度は10点ということがザラにあるでしょう?
―― 言われてみれば……
杉本 つまり40点のダメージまでは防具で防いで無傷なのに、50点のダメージを受けると倒れてしまう。
―― 外身が固くて、中身が柔らかいんですね。
杉本 そのリアリティがあるから、とてもGMがしやすい。油断すると一瞬で死ぬからこそ、緊張感のあるシナリオができるんです。
―― なるほど。
杉本 もう1つはテンポとリズムです。「T&T」の戦闘は1人1人順番に解決するんじゃなく、全員が一気に処理をしますね。
―― なので1回の戦闘がそれほど長引きませんね。
杉本 そうでしょう? セービング・ロール(行為判定)もすぐに終わります。メインの戦闘をはじめ、誰かが「待つ」時間が少ないゲームが好きなのです。私は現在、活動として「1時間でできるTRPG」を広めているのですが、これに最適なルールとして「T&T」を推薦しています。
 
杉本編集長を魅了しつづける「T&T」の魅力、まだまだ熱弁がつづきますよ!


2.『TtTマガジン』誕生まで
   その後、杉本編集長はFT書房の主幹として「T&T」だけでなく多くのゲームブックを同人出版されますが、そんなある日――
杉本 たしかアメリカで『Deluxe Tunnels & Trolls』が出る前後(2015年6月)ぐらいに、ケン・セント・アンドレがFacebookで話しかけてきたんですよ。FT書房って最近「T&T」出してないでしょって。それで、200パラグラフのT&Tソロ・アドベンチャーを2本入れた『剣の森』というのを出したんですね。その流れで雑誌もまた出そうとなったのが『TtTマガジン』創刊のきっかけです。
 
*ケン・セント・アンドレ『T&T』のメイン・デザイナー。現在も精力的に創作活動を行っている。
*『Deluxe Tunnels & Trolls』:40年の時を経て、2015年に最新版が刊行。日本では『トンネルズ&トロールズ完全版』としてボックスタイプグループSNEから2016年に発売された。
―― ケンとは以前から交流があったんですか。
杉本 いえ、Facebookで友だち申請したら承認してくれて、誕生日に「おめでとう」ってひらがなで(笑)メッセージが届いたんです。それで「ぼく、ケンの大ファンです」って送って、それから交流がはじまりました。
―― そうだったんですね。
杉本 あと、ぼくは「T&T」は現代にない素晴らしいゲームだと思っていたので、流行り廃りに関わらず、色々出していきたいとずっと考えていました。そんなとき、仲間の1人にDTP(編集作業)のできる人がいて、雑誌を作るなら一緒にやろうと言ってくれたんですね。その話に乗ったというのも1つのきっかけです。
―― そうして『TtTマガジン』創刊号に取り掛かっておられる頃だと思うんですが、グループSNEから連絡が行ったんですよね。
杉本 はい、安田さんから『ロール&ロール』誌に「T&T」のソロアドベンチャーを書かないかとお話をいただいたんです。そのときに(第5版対応で)『TtTマガジン』を創刊するというお話をしたら――
―― SNEで『T&T完全版』出すよ、だから完全版対応にしちゃいなよってなったんですね?
杉本 そうでした(笑)! それで、2016年の夏コミで完全版対応の創刊号を出したんです。
 
 
*第5版1987年社会思想社から出た『トンネルズ&トロールズ ファンタジーRPGルールブック』(ケン・セント・アンドレ著 安田均監修 清松みゆき訳)
杉本 こうしたことはすべて偶然のようで偶然ではなかったような気がしています。
―― 安田も同じことを言っていたのですが、流れがそうなるというか、いま思えば最初からすべてがつながっていたような感じですね。
杉本 その後、安田さんから2号からは共同制作でやろうとご提案いただきました。
 


3.『TtTマガジン』で大切にしていること
―― そうした経緯があって、現在共同制作という形で3号まで刊行されているわけですが、編集にあたり大切にされていることはありますか。
杉本 やっぱり「T&T」って海外のものにしかない魅力があると思うんです。ただ、料理と一緒で、それをそのまま日本にもってきても、ちょっと口に合わないところが出てくる。そうした部分は必要があれば日本人に合うようにアレンジしつつ、そのままでも受け入れられるものは大切にしていきたいといつも思っています。
―― 完全に日本の文化に合わせてしまうんじゃなく原作の良さも残して、ということですね。
杉本 ええ。そして、その一方で、ぼくがソロアドベンチャーを書くときにはきっちりした、というか海外のものとは違って、かつそれとは戦わない作品を作ることを心がけています。ケンの作ったソロ・アドベンチャーなんかは、こう、ばぁっーと……
―― ばぁっーと?
杉本 すごく豪快なんですよ(笑)。なので、両方のタイプの作品に出会える雑誌にしたいですね。
―― じっさいに『TtTマガジン』の目次を見てもオリジナルと翻訳両方のソロ・アドベンチャー小説日本ならではのリプレイコミック知識系記事とバラエティに富んでいますね。
杉本 ええ。ルールが少なければ少ないほど世界観の共有が大事だと思いますので、イラストも大切にしたいですし、まだまだ勉強不足ではあるんですけれど、レイアウトなんかもちゃんとしたものにしていきたいと思っています。
―― 1号2号3号と号数を重ねるうちに、ページ数もイラストも増えて、どんどん楽しさが増していますね。


4.『TtTマガジン』今後の予定
―― 年3回刊行ということですが、4号の発売はいつになるのでしょうか。
杉本 予定日は9月1日です。この4号が一周年記念号になるんですよ。
―― おお、一周年記念号がTRPGフェスティバル初日に初お目見えなんですね!
 
*TRPGフェスティバル2017年9月1日~3日熱海のホテル大野屋で開催される2泊3日の一大ゲームイベント。前身はJGC(ジャパン・ゲーム・コンベンション)。
詳細はこちらで⇒http://trpgfes.jp/
杉本 4号の目玉は清松(みゆき)さんのソロアドベンチャー「デラックス・バッファローキャッスル」ですね。それから特集が2つあって、1つが「クトゥルフ特集」「T&T」のクトゥルフ・ヴァリアントをご紹介します。もう1つは「魔法のアイテム特集」です。他にもシナリオやコミックなど盛りだくさんですのでぜひ! ページもさらに増えて148ページです!
―― (どこまで増えるんだ?) さすがにその辺りで落ち着きそうですか。
杉本 いえ、それはわからないです(笑)。さらに5号が12月発売の予定で進行中です。
―― すでに安田がツイッターで呟いているのでご存知の方も多いと思いますが、今後は「アドバンスト・ファイティング・ファンタジー」(以下「AFF」)の記事なども?
杉本 はい、いろいろ変化も取り入れていきたいので、まずは「AFF」の紹介記事からはじまって、タイタンとは何かまで踏み込むのかなあと思っています。
 
*「ファイティング・ファンタジー」の主要な背景となる架空世界及びその創造神「タイタン」とよばれている。


5.最後に。
―― 最後に読者の方にここを見てほしい、というところがありましたら教えていただけますか。
杉本 そうですね……ぼくが面白いと思うのは、海外の人の作品ってこういうのすごいだろうってばーんと来るんですよ。特に「T&T」は顕著ですね。そういう日本人離れしたサイズ感のものをドンと提示されて、これ面白そうだけどどうやっていいかわかんないよっていう読者さんとの距離感を埋める、というのがぼくのやりたいことなんです。ぼくみたいな隅っこを詰めるのが得意な人間が、役割分担として細かい部分を担っていくことができるんじゃないかと思っています。
―― 『T&T完全版』で言えば、3分冊の大きなルールブックがあります。こんなにたくさん読めないよ、というときに、まず『TtTマガジン』を読んでもらって、ゲームを理解してもらう、という感じでしょうか。
杉本 そうですそうです。「T&T」のメインのルールってじつは3つぐらいしかないんです。戦闘ルール、セービング・ロール魔法――この3つを押さえれば、ソロ・アドベンチャーなんかはそこそこ遊べます。初心者の人は魔法をカットしてしまえば、覚えることってあんまりないんですよ。
―― 「T&T」は歴史のあるゲームですから、見た目のボリュームは圧倒的ですが、じつはルール自体はとてもシンプルですね。
杉本 そういう意味で「T&T」は初心者に門戸の広いゲームだということは、最後に申し上げておきたいです。
―― 4号から5号、そして新たな作品を加えた今後の『TtTマガジン』を楽しみにしております。本日はありがとうございました。
杉本 ありがとうございました。


 親しい間柄ながら、やはり内部のインタビューとは勝手が違い、微妙な緊張感が漂うインタビューとなりました。でも、原作のもつ味わいとサイズ感をなにより大切にしつつ、それを「日本人にも馴染みやすくアレンジし、このルールはじつはこうやって遊ぶと楽しいんだよと紹介し、大事なエッセンスを抽出して初心者の方にわかりやすく伝えたい」という杉本編集長の熱意が少しでも伝われば幸いです。

 さらに、杉本編集長の友人であり「T&T」のメイン・デザイナーであるケン・セント・アンドレ氏に『TtTマガジン』を送ったところ、ぜひ(その1部を使って)アメリカ版を出したい、というオファーが届きました。杉本編集長やSNEのボス安田均、その他の関係者が長年『T&T』に注いだ愛情が、このような形で1つの実を結びつつあります。詳細は後日、お知らせいたします。こちらについても楽しみにお待ちください。


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