第四章  トルコお買い物事情(2000年10月23日(月))

 今回の旅の隠れた目的の一つは、グランド・バザールでの買い物。ここでは少しだけカイの体験したトルコ、主にイスタンブールのお買い物事情を紹介しよう。

☆ トルコじゃだれもが億万長者

 ご存知の方は多いと思うが、トルコは慢性的なインフレに苦しんでいる。われわれも最初の両替で、度肝を抜かれてしまった。
 日本円10,000円が60,250,000トルコリラ。20,000円も持っていれば、なんと夢の億万長者だ。
 おかげでカイの金銭感覚は幼児並みに低下。見かねたボスがアドバイスをくれた。
「まず100万の単位をはずしてから1.6をかけてやな……」
 ま、待ってください、ボス。そもそもお札に無数のゼロが並んでて、そんなにすぐにはケタが読めません。

 というわけで、トルコでは円やUSドルの通用する店が多いが、値段の交渉には単位の少ないUSドルが便利だ。しょせんカイの買い物では100ドルが上限。英語で100まで数えられれば事足りるからだ。その後、円に換算して(1ドル100円換算なので楽)、トルコリラで支払う、という3段論法(?)を多用した。

☆ グランド・バザール(1)

 バザールというと青空市場をイメージしていたが、ここは屋根つきの巨大な市場。集まった店の数は4000軒を超えるとか、そりゃもう想像を絶する規模だ。
 しかも、カイの大好きなチープな品物、鍋だの釜だの財布だの置物だのが狭い通路にはみ出している。
 もちろん高級貴金属もずらりと並んでいるのだが、それらとて「さあさあ、なんぼでもまけまっせ!」オーラを発しているのだからたまらない。
 カイの弱点は革製品(カバンとジャケット)と布製品。最初に目についたのが柔らかいシープ皮のワンショルダー・バッグ。値段をきくと50ドル。

 15ドルなら買うんだけど、そこまではまけられないよね。

 店のお兄さんも目をむいて、そいつぁできない相談だぜ、と言う。
 ならいいや、と店を出ようとすると、わかった、15ドルで売ってやる! と品物を押し付けられた。
 このとき、カイはバザールの値切り交渉を見切った。開始価格がいくらであれ、自分が妥当と思う金額を言うしかないのだ。今思えば、あのカバンは粘れば10ドル前後まで下がったかもしれない。が、カイ自身が15ドルでお買い得と思った時点で勝敗は決していたのだった。

☆ グランド・バザール(2)

 トルコは親日派が多い…と思う。単なる「金ヅル」としてだけじゃなく、もっと素朴に。
 たとえばバザールの通路を歩いていると、しょっちゅう呼び止められて「アマムギアマゴメアマタマゴ」――わけのわからない早口言葉を聞かされる。思わず吹き出すと、じゃあ、おまえがやってみろ、となる

「東京特許キョキャキョクキョキャキョクチョー」

 ふむ……英語より難しいな。

 それでも、周りに人が集まってきて、「おおー!」と拍手喝采。
 はるばるトルコくんだりまで来て、なにやってんだろ、私?

☆ グランド・バザール(3)

 その後、カイは怪しい革のコート屋にひきずりこまれる。かなり危ない
「お金ないから買わないよ」と言っても「見るだけタダ」の常套句。まあ、そうと知っててつかまったのだから、文句は言えまい。結局、4万円のコートを1万5千円に値切って購入。それにしても彼らのつける初期価格は絶妙だ。日本ならしごく妥当という値段をずばり突いてくる。
 で、この話には続きがある。カイの冒険譚を聞いたボスの奥様ヨーコさんが、その店に案内してほしいと言いだした。
 そこで再び熾烈な値引き交渉がはじまるのだが、ヨーコさんは店員が価格を提示するたびに「パパ、ノー!」と、顔の前で大きなバッテンを作る。「そんな高い買い物、ダンナさまが許してくれないワ」というわけだ。
 それを知った店員は店をとびだし、外をぶらついていたボスを見つけると「パパ、こっち! パパ、こっち!」と大声で呼ばわり、店に連れもどしたのだった。
 後で聞いた話だが、これはボスにはだいぶん恥ずかしかったらしい。
「パパ、こっち!」の店員さん(左)とマコちゃん
結局、ヨーコさんは自分のコートと、マコちゃんのためにジャンバーを購入。

値引き交渉に勝ったことで、ヨーコさんに1ポイント。
粘って2着買わせたことで、店員さんに1ポイント。

この勝負、引き分けってところだね。
 文字通り、東西文化の融合するイスタンブールは、ヨーロッパの洒脱とアジアの気安さがいい感じにまじりあっている。
 たまたまその場に居合わせた見知らぬ客同士も店員も、いっしょになってコミュニケーションを楽しむ。儲けが多かろうが少なかろうが、もはや関係ないのだ。
 どれだけ愉快な時間を過ごせたか、それが彼らの「商売」の醍醐味であるように思えた。
◆「第五章 いよいよギリシャへ」に進む。

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