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ブラッドバットが最多票

 犯人だと名指しされたのは、ブラッドだった。
 時刻はもう朝。そろそろ警察がやって来る時間だ。
 しばらく沈黙していたブラッドは、ゆっくりと喋りはじめた。
「.……そう。そう、そう。俺が犯人だよ。こう……刺したんだよペインを。だから俺が警察に……」
「もう、いいよ」
 ブラッドのマイクから、オッサン声に重なって女の子の声が聞こえてきた。だがオッサン声はそれを無視して話を続けようとする。
 突然、ブラッドのアバターが、頭だけを地面にぶつけた。頭部に装着していたVR機器が床に落ちたのだ。
 空中に浮いている手は、現実の方で誰かに奪い取られたような動きをした後、頭を拾い上げた。
 一連の挙動、今までの疑惑。ブラッドは今、本物の女の子に切り替わった。
 女の子は、あなたたちひとりひとりと目を合わせてから、自分の正体を明かし、今までのことを説明した。
 女の子は中学2年生。いままで話していた『ブラッドバット』の娘であり、もうひとりの『ブラッドバット』だ。
 暇だったある日に父親とVコミュを始めて、あなたたちと出会った。『ブラッドバット』のアカウントは、おもに彼女が使っていた。オフ会の時や、女子中学生にはふさわしくない場では父親が代わりに出て、2人1役をしていた。
 やがて娘は、Vコミュで遊んでいるうちに、Nさんに恋をした。Nさんのイケメンムーブを受け取った女の子は、Nさんと付き合っているのだと勘違いしたのである。
 だが、Nさんはペインと仲が良かった。女の子は2人のようすを見て、Nさんを取られたと感じた。これが動機となった。
 オフ会の日、父と娘が連絡をとる機会があった。父がピザ屋へ電話をしたときだ。ピザ屋への電話を終えた父は、娘に電話をかけ、オフ会のようすを知らせていた。その時、娘はペイン宅の住所を聞いた。翌日、女の子はペイン宅に忍びこみ、犯行におよんだのだ。
 これらを話し終えた時、インターホンのチャイムが鳴った。
 娘は、父親に付き添われて、警察への出頭を望んだ。
 会話の最後に、彼女は、VR機器をかぶったまま、あなたたちの方を見た。
 にこやかなアバターは、何も言わずに頭を下げて、ログアウトした。
 その日から、ブラッドがVコミュに現れることはなくなった。

 それから長い月日が経った。連れて行かれた女の子の指紋は、包丁についていた指紋と一致したそうだ。あなたたちは警察に事情を話し、法廷に証人として出たりと、できるほぼすべての協力をしていた。
 女の子に懲役刑の判決が出てから、もう6年。思い返す機会はだんだん減ってきていた。
 夏の虫も消え始める頃合いの今日、あなたたちは仲の良い5人でオフ会を開いた。
 集合場所は、ペインが埋葬されている墓地の最寄り駅。
 しんみりするのも自分たちらしくないので、談笑しながら墓地へ進んだ。
 その中の3人は、先ほどすれ違った女性とオッサンに、気づかないフリをした。

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